福岡高等裁判所 昭和41年(う)728号 判決 1968年4月18日
主文
原判決を破棄する。
被告人等はいずれも無罪。
理由
<前略>
弁護人等の控訴趣意第一点(原審が国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの。以下同じ)第九八条第五項前段は憲法第二八条に違反しないと判示したことは誤とする論旨)及び第二点中原審が国家公務員法第九八条第五項前段所定の行為をあおつた者を処罰する同法第一一〇条第一項第一七号の規定が憲法第二八条に違反しないと判示したことは誤であるとする論旨について。
国家公務員は憲法第二八条にいう勤労者であつて、原則的にはその保障を受けるべきであり、公務員が全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではないとする憲法第一五条を根拠として公務員に対し右労働基本権をすべて否定することは許されないが、右労働基本権といえども、なんらの制約も許されない絶対的なものではないのであつて、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包しているものと解せねばならない。(最高裁判所昭和四一年一〇月二六日大法廷判決、最高裁判所判例集第二〇巻第八号九〇一頁以下参照)
しかして、国家公務員の職務は直接、間接に国政の円滑な運営に影響するところ大きく、正常な職務遂行が行われず政府の活動能率を低下させるときは、国民生活に重大な障害をもたらすことは疑いをいれず、それ故国家公務員法第九八条第五項前段において国家公務員に同盟罷業、怠業その他の争議行為または政府の活動能率を低下させる怠業的行為(以下争議行為等という)を禁止する規定を設けたことは、右の国民生活全体の利益の保障の見地からの制約として、やむをえないところであり、その禁止に反した者は、その行為の開始とともに、国に対し法令に基いて保有する任命または雇用上の権利をもつて対抗することができない(同条第六項)という不利益を課せられるが、これに対しては、原判決の判示するごとく、国家公務員法は職務と構成に公正と相当な独立性をもつ人事院に国家公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し情勢に適応した勧告を義務付け、あるいは勤務条件に関する行政措置を要求する権利や不利益審査請求権を国家公務員に与えるとともにそのための必要な諸手続を整備しているのであつて、国家公務員の争議行為等の禁止をやむをえないとしても、これに見合う代償措置が講ぜられているのであるから、右争議行為等の禁止は必要な限度を超えない合理的なものとして是認すべく、国家公務員に対し争議行為等を禁止する右九八条第五項前段の規定を違憲無効のものというをえない。たとえ、右代償措置の現実の運用とその結果が必ずしも国家公務員にとつて満足すべきものではなかつたとしても争議行為等禁止の代償措置としての右制度は必ずしも不十分であるとはいえず、運用と結果上の問題点から、直ちに代償措置そのものの存在価値を否定し争議行為等の禁止を不合理であるとなすをえない。
そして、たとえ国家公務員が右のように禁止された争議行為等をしたというだけでは刑罰は科せられないのであつて、なぜなら、それが国法をもつて禁止するような行為であるといつても、このような単純な労働力の不提供という不作為は労働基本権の尊重から争議行為等に対する刑事制裁が緩和される方向に進んでいる労働規範の変遷に鑑み、刑罰を科すべきほどに著しく反社会性が強いとは評価されていないからである。
しかし、このような争議行為等であつても、なお国法上禁止されその禁止が合理性をもつ以上、右はやはり法規に反し正当な行為とはいえないのである。
しかも、一般に争議行為は組織的に行われるもので、個々の公務員の労務放棄の面からのみでなく、集団的現象としての面から考察する必要があり、集団の持つ威力、その社会的、国家的効果という観点からすると、争議行為等をあおる行為は国民全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす事態に発展することがあり、かつかかる事態発生の原動力となるから、このような行為をなした者は、単なる争議行為の実行者より、それに対する積極性において一段と強いものがあり、従つて反社会性が著しいといわねばならない。かくて公共の福祉の要請からの已むを得ない制約として、これをあおる者に対し刑罰をもつてのぞむことに必ずしも合理性がないわけではない。
けれども、適当な代償措置を講ずることによつて公益目的のために争議行為等を禁じたからといつて、すべてのあらゆる形態、程度の争議行為等を前提として、またあおり行為のあらゆる態様、程度のものすべてについて、そのあおり行為をした者を処罰すべきものかについては、特にあおり行為が言論、文書等の表現活動に基礎をおくものであるうえ、問題が、労働基本権に関するものである以上、労働基本権の行使との調和、均衡が保たれるよう解釈上考慮すべきことと、憲法第三一条の趣旨からみて、当該刑罰規定の解釈によつて、その内容が合理性をもち適正であると認められねばならないことに鑑み、そこにおのずから解釈上の限度があることを認めざるをえない。
もとより争議行為等が政治目的のために行われるとか、暴力を伴うときのように労働法秩序における保護の枠外にあるものについて、これをあおることが刑事責任を免れないことは論をまたないが、国家公務員といつても、その職務内容は多種多様であつて、国民生活に対する密着の度合、影響力には差異があるので、一般的にはその職務が国民生活に重大な影響をもつとはいえ、一時的に職務の停滞があつても、直ちに国民生活に重大な障害をもたらすおそれのない場合もあつて、このようなものについては争議行為等を禁止されているからといつても、これを特に非難すべきものとはいえないであろうし、このような行為をあおつても、労働法域における可罰性を論ずるうえからいえば、これに刑事制裁を科するものと解することは妥当を欠き、合理性にも乏しい。従つて国家公務員の争議行為等をあおつたとして処罰されるのは、その争議行為等が政治目的のために行われるとか、暴力を伴うようなもの、または国民生活に重大な障害をもたらす具体的危険が明白であるもの、などのように不当性をもつものについて、これをあおつた場合にまず限定しなければならないと解するのが相当である。
右は争議行為等の面からみた解釈であるが、なお、あおり行為自体の面から考察してみると、争議行為等は労働者の組織団体の威力を背景とする集団的統一体として団体行動であつて、かかる行動をおこすについては、団体各機関における討議、説得、慫慂が行われるであろうし、また具体的な実行の場において統一体として行動をとるために各種指導、統制が行われることが通例であつて、争議行為等を行うにあたつて団体行動を統一的に行うために通常随伴するような行為は、むしろ右争議行為等と不可分であり、それ故にこそ、その企画指導統制のもとに行われた争議行為等が上記の意味における不当性をもつものであれば、これをあおつた行為の可罰性を肯定しなければならない。しかし、争議行為等の中でも特に非難可能性の微弱なものについては、通常一般の争議行為等に随伴し不可分的に存在すると認められるようなあおり行為をもつてこれを刺戟することがあつても、このようなあおり行為を可罰的なものとはいえないことは上記説示するところから論証しうるところである。もともと、あおり行為は感情に対する刺戟であるところから、その相手方に与える影響の程度範囲についてかなりの差異を生ずることは否めないところであるが、争議行為等に直接利害関係のない第三者、あるいは当該団体行動とは無関係の立場にある国家公務員が、その争議行為等に介入しこれをあおるとか、当該争議行為等に密接な利害関係を有する国家公務員であつても、そのあおり行為が争議行為等の際に通常行われるような手段、方法、程度を超えて激越にわたり、非難可能性の微弱な争議行為等を前記の意味における不当性をもつものに進展させる可能性のある場合のように、あおり行為自体に社会的許容性を欠くときには、なおそのあおり行為の可罰性を認めざるをえない。
右のように解釈して刑罰規定の存在趣旨を理解するとき、はじめて、右の限度においてあおり行為の構成要件該当性を肯定すべく、よつて国家公務員法第九八条第五項前段所定の行為をあおつた者を処罰する同法第一一〇条第一項第一七号の規定が憲法第二八条に違反し無効とは到底認めることはできない。
すると、原審が国家公務員法の前記各条項の右関係部分がいずれも憲法第二八条に違反しないと判断したことは、右の限度において、なお正当といわねばならない。論旨は理由がない。
同控訴趣意第二点中原審が国家公務員法第九八条第五項前段所定の行為をあおつた者を処罰する同法第一一〇条第一項第一七号の規定は憲法第一八条、第二一条、第三一条に違反しないと判示したことは誤であるとする論旨について。
しかし、さきに説示したとおり国家公務員の争議行為等を禁止することが必要な限度を超えないやむをえないものとして、その合理性が認められ、かつ、この禁止された争議行為等をあおつた者に対し刑事制裁が科せられることにも、上記説示のとおり解釈することによつて、その合理性を認めうる以上、刑罰の威嚇をもつて労働を強制するものといえず、また、右あおり行為は憲法の保障する言論、表現の自由の限界を逸脱するものであるから、かかる行為をした者を処罰する旨定めた国家公務員法第一一〇条第一項第一七号の規定は憲法第一八条または同法第二一条に違反し無効となるものではない。
そして、後記弁護人等の控訴趣意第四点について説示するとおり右国家公務員法第一一〇条第一項第一七号の処罰の対象となる争議行為等を「あおる」という概念も明確に与えうるのであつて、所論のごとく、明確性を欠くものとは認められず、その処罰の合理性も認められる以上、同号が憲法第三一条に違反し無効というをえない。
すると、原審が国家公務員法第九八条第五項前段所定の行為をあおつた者を処罰する同法第一一〇条第一項第一七号の規定が憲法第一八条、第二一条、第三一条に違反しないと判断したことは右の限度において正当であり、論旨は理由がない。
同控訴趣意第三点(原審が国家公務員法第九八条第五項前段及び同項前段所定の行為をあおつた者を処罰する同法第一一〇条第一項第一七号の規定は結社の自由及び団結権の保護に関する条約(I・L・O・八七号条約)及びI・L・O一〇五号条約に違反しないと判示したのは誤とする論旨)について。
しかし、右八七号条約には、適当な代償措置による保障のもとに国家公務員の争議行為等を禁じ、これをあおる行為を処罰することを違法とすべき明文上、解釈上の根拠は見当らないから、右禁止及び処罰を定める国家公務員法第九八条第五項前段、第一一〇条第一項第一七号が右条約に違反するものとは認められず、また一〇五号条約は未だ我国の批准していないもので、条約として確定的成立があつたものではないから、これに国内的効力を認めるをえず、従つてこれを基準として国法の当否を批判するのは失当であり、更に、同条約の所論のごとき基本的な考慮及び所論I・L・Oの結社の自由委員会の考え方が、そのまま国際法規として確立されているものとは、当審における事実取調の結果によるも、これを認めるに十分ではない。すると、原審が国家公務員法第九八条第五項前段及び同項前段所定の行為をあおつた者を処罰する同法第一一〇条第一項第一七号が右各条約に違反するとの弁護人等の主張を排斥し、右各規定がいずれも憲法第九八条第二項に違反しないと判断したことは正当であり、論旨は理由がない。
同控訴趣意第五点(事実誤認)及び第四点(国家公務員法第一一〇条第一項第一七号に規定するあおり行為の解釈適用の誤)について。
国家公務員法第一一〇条第一項第一七号にいう「あおる」という概念は争議行為等を遂行させる目的で、文書もしくは図画または言動により、人に対しその行為を実行する決意を生ぜしめるような、またはすでに生じている決意を助長させるような勢のある刺戟を与えることをいうものと解すべきである。
これを本件についてみると、まず、本件争議の情況及びその中での被告人等の所為は次のとおりである。
原判決挙示の証拠によれば、原判示第一、事実関係、3罪となるべき事実中、被告人等の言動に関する外形的事実を認めることができる。けれども被告人等の言動についてはその評価をなすうえにおいて、なお詳細に事実関係を検討してみる必要があり、当時の事件の経過をたどりながら被告人等の言動を観察するに、原判決挙示の証拠によれば、原判示第一事実関係1、全農林省労働組合長崎県本部、同統計本所分会の組織と被告人等の経歴、並びに2、本件に至る経緯として判示するところと同一の事実関係を肯認することができ、更にこれに続く昭和三六年一〇月一二日午後三時頃から開かれた本所分会臨時大会以降の情勢及び被告人等の言動は、次に認定するとおりである。
昭和三六年一〇月一二日午後三時頃から農林省長崎統計調査事務所内水産作況課の部屋を使用し、国家公務員である同事務所職員竹本不二夫等組合員約五〇名が集合して本所分会臨大会時が開かれ、これには全農林省労働組合長崎本部執行委員長藤崎勝、副委員長の被告人上野四郎書記長綾部賢、執行委員苣田義一郎、同大場未亀等も出席し、議長団に雄城外一名が選出され、まず藤崎執行委員長から挨拶があつた後、被告人上野が右事務所長早水信夫に対し九・一通告の取消を要求し交渉が決裂した経過を説明し、戦術委員会において決定された翌一三日から坐りこみの実力行使を決行し所長の反省を求める斗争実施方針について大会の承認を求め、出席者から質問もあつたが右方策を実施することについては反対者もなかつたので、議長は翌日から坐りこみにはいる旨を宣言した。次いで被告人今村は、午前九時から午後五時まで、組合員を二班に分け二時間交替で坐りこむなど、実施要領と、坐りこみを実行するについては組合執行部の統制に従つて行動すること、警察の介入があつた場合は手を出してはいけない質問を受けるようなことがあつたときは執行部に廻し自ら返事をしてはいけない、たとえ課長から仕事のことで話があつても、勝手に坐りこみを立つてはならない、坐りこみをはなれるときは斗争委員の許可を受けることなどの注意事項を伝達した。
翌一三日朝、斗争委員によつて右事務所玄関前に坐りこみ用のむしろをひろげたり、旗をたてたりなどして用意がなされ組合員は同事務所裏庭に集合し、綾部書記長が斗争宣言を読み上げ、被告人上野が当局より一日長く頑張ろうと呼びかけ、被告人今村も所期の目的を達するため執行部の指示に従つて規律ある斗争を行つてもらいたいとうつたえて班を編成し、組合員等は労働歌で気勢をあげて午前九時三五分から第一班の組合員等が事務所玄関前で坐りこみをはじめた。
そこで右統計調査事務所庶務課長岡本猛雄は右の行為は国家公務員法で禁止されている争議行為であるから中止するよう記した所長名の警告文を被告人上野に手交するとともに、玄関前に坐りこんでいる二、三〇名の組合員に対し所長命であることを告げて前同警告をし職場に復帰するよう命じた。すると、被告人上野は庶務課長は争議行為というが、そうではなく所長に対する抗議行為をしているのだ、団結を固め最後まで斗おうと組合員等に呼びかけた。なお岡本課長は右警告と職場復帰を命ずることを書いた所長名の貼紙を玄関横の壁に貼りつけたが、組合側でも直ちにその傍にわれわれの行為は抗議行為である趣旨の記載ある紙を貼りつけた。
午前一一時頃になると、坐りこんでいた組合員等は第二班と交替したので、新たに坐りこんだ組合員等に対し岡本課長は前同様の警告と命令を告げ、組合側でも被告人上野の指図を受けた大場執行委員から前同被告人と同旨の説明をくりかえした。
組合員等の坐りこみは右のようにして二交替で行われ、午後五時まで続けられた。
一四日朝、組合員等の坐りこみの前、被告人今村は組合員に対し経過報告を行い、被告人上野は所長が反省するまで、われわれは徹底的に斗おうと呼びかけ、苣田執行委員が音頭をとり、労働歌を歌い、がんばろうを三唱して、前日同様二交替で午後五時まで坐りこみに入つた。
午前一〇時頃、岡本課長は藤崎執行委員長宛の所長名義の坐りこみ中止命令書を被告人上野に手交し、玄関前の組合員に対し前日同様の警告等をなし、これに対し被告人上野は、われわれのやつているのは庶務課長のいうような争議行為ではない、所長に対する抗議行為だから国家公務員法にふれることはない。当局より一日長く頑張ることが勝利をもたらすことになるのだ。皆さん最後まで頑張ろうと呼びかけた。
午前一一時頃被告人上野は組合員に対し、これからビラを貼るが庶務課長が制止したり、はいだりするかもしれないが、反抗してはいけないといつて、労働慣行を無視する所長の反省を要求するとか、所長の独裁を破り明るい職場を守ろうなどと書いたビラを庁舎に貼りつけたので、岡本課長は警告したが無視されたためビラが貼られると、いちいちこれをはぎとつたので被告人上野は間もなくビラ貼りを中止した。
一五日は休日であつたので坐りこみは行われなかつたが被告人上野は独りで庁舎の窓や机などに右ビラを貼りつけた。
一六日朝、組合員全員が裏庭に集まり、被告人上野、同今村から経過報告や作況調査課長松田竜盛、面積調査課長菊地長近、水産統計課長進藤国夫等が同日組合を脱退したことを報告して午前九時半頃から前同様二交替で坐りこんだ。
岡本課長は被告人上野に対しビラをはぐよう申し入れたが、拒絶されたので、自らこれをはがしにかかつたが容易にとりのぞくことができず、斗争が終つた二五日まで放置した。なお同課長は午前一〇時頃と午前一一時半頃の二回にわたつて坐りこみ中の組合員に対し前同様の警告をくりかえし、また被告人上野に対し前同様の警告と中止命令を伝えた。
一七日日高農林統計課長も組合を脱退した。同日朝被告人今村は裏庭に集合した組合員に対し課長達が組合を脱退したのは、組合の分裂をねらうものだと説明し、被告人上野は所長がその非を反省するまで坐りこみを続けようと呼びかけて、この日も二交替で組合員等は玄関前に坐りこんだ。これに対し岡本課長は前同様警告を発した。
同日午後二時頃、公務員共斗会議の一団が同事務所を訪れ早水所長に対し事態収拾についての考え方をただし、被告人上野は、その際もはや現在においては旅費とか労働慣行とかのことではなく所長の事務所運営の方針態度を問題にしているとして、所長のこれまでの態度を改めるよう申し入れて五項目について回答を要求し、その回答次第では坐りこみを解くことを言明したので所長は後日の回答を約した。
右の五項目とは、一、所長は事務所運営で生活権を軽くみて無理やり働かせるような非民主的なやりかたを改める。二、民主的に行う職員団体の意思を十分に尊重せよ、三、組合との交渉は対等であることを認め、約束はきちんと守る、四、約束は役所と組合としたことであつて個人としての約束ではないから機関の約束であることを認めよ、五、過去において役所と組合のした約束は所長が変つても勝手に改廃してはならぬ、引き続いだ労働慣行は引き続き守るべきでこれを改廃するには両者の意思の一致を必要とする、というものであつた。
なお、当日組合では宿直室で戦術会議を開き、一八日と一九日の両日の賃金値上げ問題についての全農林中央指令による全国統一要求斗争について検討するとともに、二〇日以降の戦術について全員坐りこみの方策を討議した結果、一八日以降全員坐りこみの実施もやむなしと決定し、直ちに職場大会に付議してこれを決議し、所長に対し一八、一九日の両日は中央指令により全員業務を拒否する旨を通告した。
一八日朝、被告人上野が中央情勢を裏庭に集合した組合員等に説明し、中央指令に基き、全員坐りこみを実施した。これに対し岡本課長は午前一〇時過ぎ、前同様の警告と中止命令を文書にして被告人上野に交付し、坐りこんでいる組合員に対しても前同様の警告をした。
同日早水所長は組合側からの前日の要求に対し、第一項から第三項までは了解第四、第五項も基本的には了解したが、なお当所長限りの拘束にとどめたいと回答した。しかし、組合側はこれに納得せず、被告人上野は今後は本省の部長と交渉し所長との話合いをやめるといつて退出した。組合側としては当時の状況としては、所長との交渉からは妥結の見込がないため、全農林中央本部から執行委員に来てもらい、また当局側にも然るべき人を派遣してもらつて交渉をした方がよいとの判断に達していたもので、斗争はなお二〇日以降も強化し解決するまで全員坐りこみを決行することになつた。
一九日は裏庭に組合側で天幕を張つて全員で坐りこみ、岡本庶務課長は口頭でこれが撤去を組合側に申し入れたが天幕は撤収されなかつた。
かくして、以後二二日の日曜日を除く外二四日まで勤務時間内の坐りこみが組合員全員で行われた。
右の経過や情勢は九月下旬頃から全農林中央執行委員等によつて本省関係部局にも知らされており、一三日頃からは連日早水所長から電話等で実情報告がなされていた。そして一六日頃には別途岡本課長からも、事態収拾のため本省から係官派遣を要請し、一九日には全農林労働組合中央本部委員長からの希望もあつたので農林省統計調査部長は管理課管理班長角桂策に対し実情調査と早水所長への助言を命じたので、同班長は二二日長崎に到着し、早水所長から事情を聴取した。
そして二三日午前九時半頃から全農林中央本部派遣の中央執行委員高橋鉄志をまじえて組合側と話合いをした結果、組合側からの五項目の要求を早水所長がいれれば、組合側は当局側と今後労働慣行とされている一つ一つについて話合いを続けていく用意があるとの言明があり、そこで角班長は、ともかく早水所長と会つて解決案を示すこととし、二五日中に回答することを約し、直ちに早水所長と協議し、また本省の統計調査部長の了承をうけたうえ、事態収拾をはかることとなつた。
翌二四日早水所長は組合側に対し、まず、不馴れの点もあつてこのような事態を招来したことについて所長として責任を感じているとの発言があつ、組合側の要求五項目は認めるが、労働慣行とされている旅費、二名専従、年休、レクリエーションタイム、人事などに関するとりきめは文書上労働慣行からはずして、裏文書とし、これについては将来当局と組合側とで話合うことを提案し、これに対し組合側は、とりあえず要求五項目についての確認書作成を要求して同文書が作成され、これに早水所長と藤崎県本部執行委員長が署名し、角班長と高橋中央執行委員が立会人として署名を添えた。そして、組合側は上記労働慣行を文書からはずすことについては翌日に回答をしたい、なお坐りこみは日本をもつて解くことを約して引きあげた。
二五日高橋中央執行委員から早水所長に対し、前日の提案のうち旅費問題を文書からはずすことには異存はないが、その他は同意しないとの回答があつたので、早水所長は人事と二名専従の点について再考を求め、組合側は検討を約した。そして午前一〇時頃組合員に対し藤崎県本部執行委員長から経過報告があつた後、組合側は坐りこみを解き、職場に復帰した。
右斗争にあたつて、被告人上野は県本部副執行委員長として藤崎執行委員長を代理して、早水所長との交渉その他組合側の現場最高責任者として指揮をとつたものであり、被告人今村は本所分会執行委員長として本部との連絡をとりながら分会全体を掌握し必要な報告を行うとか具体的に斗争を指導していたものである。
右によれば、被告人上野は県本部執行委員会においても坐りこみの実力をもつて九・一通告の撤回斗争を進めていくことを強く主張し多数意見もこれに同調しており、また被告人今村もこれに先立つ本所分会臨時大会において要求がいれられないとき実力行使を行う執行部案を提出し、同案は可決されているのであつて、いずれも職場放棄の主導的立場にあり、所長と県本部との交渉が決裂した後の本所分会臨時大会において被告人上野は斗争方針を説明してその承認を求め、被告人今村は坐りこみの具体的方法や注意事項等を指示し、かくて組合員等が一〇月一三日からの職場放棄と坐りこみを行うに至つたものであるうえ、被告人上野は現場最高責任者として指揮をとり被告人今村は本所分会全体を掌握し具体的指導をしており、被告人等はいずれもその争議の間において組合員に対し前示のとおり呼びかけを行つているのであるから、被告人等は、まさに、共謀して国家公務員に対し、同盟罷業を遂行させる目的でこれを実行する決意をさせるとともに、これを助長させるような勢ある刺戟を与えたものと認められ、争議行為等をあおつたという概念範疇に一応あたる行為をしたものと認めざるをえない。
しかし、本件争議は、暴力を伴つたものではないし、また被告人上野の発言には本件坐りこみが争議行為ではなく、早水所長に対する抗議行為であるとする部分も認められるけれども、その実質は所長からの労働慣行の否定通告に対し、あくまで従来の労働条件の維持を目的とする争議行為であつたことは明らかであつて、政治目的のみにかかる争議行為であつたとは認めがたい。
そして、本件争議の中心問題は、いわゆる労働慣行(14)項〔旅費法(国家公務員等の旅費に関する法律をいう。以下同じ)による三等旅費適用者も運用面でその差額を支給する〕であつて、これを改廃しようとする早水所長と、これを、維持させようとする組合側との交渉が決裂し、本件争議に立ち至つたものであるところ、原審は、「本件争議が早水所長に右通告を撤回させること、即ち旅費法に違反する取扱方を要求することにあつたことが明らかであるから本件坐りこみは違法行為を目的として行われたものであるとの評価は拭い去ることはできない」と判示する。
しかし、右判示中労働慣行(14)項の趣旨が旅費法に違反する取扱を要求するものと解すべきかについては、なお検討すべき余地がある。もともと旅費の問題は昭和三二年四月一日から施行された同年法律第一五四号一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律による国家公務員の俸給表改訂に伴い同法附則第二八項により旅費法の一部が改正されて、旅費法改正前は二等旅費適用資格者であつた五級職以上七級職以下の者及び改正時二等旅費適用資格者となるべき者が新俸給表により、七等級に格付けされたため三等旅費の支給があるにとどまつたので、その結果の不合理が指摘されて、中央で農林省と全農林省労働組合との間で交渉が重ねられ、昭和三二年一〇月三等旅費適用者にも運用で二等旅費に近い金額を支給するよう取扱うことの了解に達し、各地方でもこれにならい、長崎統計調査事務所においても、当時の松浦所長と全農林長崎県本部との間に前記労働慣行(14)項のとおりのとりきめがなされて運用されてきたものであることは原判示のとおりである。しかも、右旅費法の一部改正を含む前記給与法の改正法律が成立した際右改正旅費法中現行より不利益となる部分については十分考慮することの国会の附帯決議もあるところであつて、右とりきめは旅費法の運用において違法とならない範囲で弾力的に取扱う趣旨であることは極めて明白であり、このようなとりきめを旅費法違反の事項を定めたものとみるのは、本来適正な法の執行者であるべき行政庁の農林省自らが法律違反のとりきめをしたと断ずることとなり実情に合わない。そして本件労働慣行(14)項の文言と中央交渉の結果に現われている文言とを対比するときは、後者は運用で二等旅費に近い金額を支給するよう取扱うというに対し、前者では運用面でその差額を支給するとあつて、必ずしも同一文言ではなく、前者の方が二等旅費と同額を支給すると結論づけられやすく、旅費法違反を正面きつて実施するような態にみえるけれども、その趣旨は必ずしも中央交渉の結果を出るものとは認められず、旅費法違反のとりきめであると断ずるをえない。もつとも運用によるという表現はとりきめ自体にあいまいさを残し、実質的にも法律違反の取扱いに至る危険もあつて、このようなとりきめを労使間の文書にしておくことが適当かどうかは問題であり、本件争議の収拾の際にも当局側の結論では文書からこの条項をはずし、この問題については、なお組合側と協議を重ねることとしていたものであり、組合側でもこれを了承していたほどである。そして、その後この旅費問題について当局と組合側とで格別交渉がなされたことについても、また従来の旅費支給要領と異つた取扱いがなされたことについても、これを明確にすべき証拠は見当らず、むしろ記録上では特に前記争議収拾の際の確認書等を参酌すると、その後のこの問題についての取扱いは従前のとおりであつたと思えるふしがうかがえる。つまり、結果からみても旅費支給に関しては従来の取扱いを改める要がない状況にあつたのではないかと推測され、農林省自体もこのような取扱いの法規違反性を特に考慮していなかつたとさえ考えられるのである。従つて本件旅費支給に関する所長の通告に対し、それが従来の旅費支給の取扱いを変更するものとして交渉の対象とし、交渉がまとまらず争議行為によりこれまでの勤務条件を維持せんとしたことをもつて、直ちに法律違反の要求をするものとし違法なものであると断ずるをえない。
しかして、本件農林省長崎統計調査事務所は、原判示のとおり、同省統計調査部に直属する下級機関として設置され、長崎県下における耕地面積及び農作物の作況調査、農山漁村の統計的経済調査その他農林畜水産業に関する統計調査等の業務を掌り、長崎市内に本所をおき、本所には作況調査、面積調査、経済調査、農林統計、水産統計及び庶務の六課があり、県下に二二の出張所と一つの試験地を有し、本所各課においては各出張所の上記各種の調査報告を集計し、これを定められた期限までに本省に報告する職務を執行していたもので、それは政府部内において農林行政の企画運営のために必要な統計調査資料を提供するものであるにとどまらず、かなりの数のものが一般に公表され我国における農林部門の情勢を国民に周知せしめるとともに国の施策を検討する資料ともなつているのであるから、これら資料の収集報告は農林行政の基幹として国政に関する重要な業務であることは明らかである。
けれども長崎統計調査事務所の前記のような業務結果は直接に国民生活に密着したものではなく、第一義的には国の農林行政に奉仕するものであり、また調査と資料の収集という業務の性質上継続的なものではあるが、一回一回の報告の定期性は一応本省におけるとりまとめの必要からの要請に基くものであつて、若干の遅延があつても、終局的に本省における事務に影響がない限り国政に支障を来すものではない。
そこで本件争議行為によつてどの程度の報告遅延があり、それが本省における事務にどの程度影響を及ぼしたかを見てみるに、早水信夫の検察官に対する供述調書並びに岡本猛雄の検察官に対する昭和三六年一一月二四日付供述調書によれば、右事務所所長たる早水信夫は本件の争議行為があつたからといつて直ちに業務に影響があるものではないから、しばらく組合の出方をみようと考えていたもので、一七日までは半数の職員だけでも事務をとつていたのであるが、一八日から全員職場放棄となると全く業務が停止するので、必要な場合には臨時職員を使用してでも業務をとることで岡本課長と話をしていたところ調整官の方では特に急ぐ仕事もないからその必要もない趣旨の発言がなされていることを認めることができるのであつて、同事務所の事務に緊急性が稀薄で、業務の一時停滞が必ずしも国政に重大な支障を来すものではないことを概括的にうかがい知ることができる。
そしてこれを具体的に検討してみると、前記岡本猛雄の検察官に対する供述調書によると、当時作況調査課においては提出すべき統計資料はなく、また原審証人中山英記の供述記載によれば水産統計課における定例報告である漁獲統計調査及び水産物市場価格調査報告は、定められたとおり、昭和三六年一〇月二五日報告されていることが認められるので、右関係課においてはまず本件争議行為による影響は見られないこととなる。
ただ松尾芳二郎の検察官に対する供述調書に、当審において取調べた昭和四二年一二月二六日付農林省長崎統計調査事務所長の各種調査等の提出期限等について(回答)と題する書面(以下単に回答書と称する)を参酌して考察すれば、経済調査課においては、もつとも重要な指定統計である昭和三六年一〇月三一日までに提出すべき農林経済価値調査月計表、農村物価賃金調査報告が同年一一月一日に発送され、しかも、調査の対象は五割程度にとどめざるをえなかつたこと、同年一〇月末日までに調整官に提出予定の年表原稿が同年一二月上旬までかかることになつたこと、同年九月一五日提出予定の農村四季表が一〇月二一日に提出され、更に昭和三六年度農業経営調査中間報告表前期分が一〇月末日の期限までに提出できず、一二月一五日に速達郵便で提出報告されていること、並びに一〇月実施予定の出張所指導ができなかつたので同年一二月五日からに変更実施されていることが認められ、また上記岡本猛雄の検察官に対する供述調書に前記回答書の記載を参酌して検討すると、庶務課関係では、経理証拠書類の一〇月末日提出期限のものが同年一一月二二日に提出されており、面積調査課関係での報告も一〇日位遅延し、更に農林統計課関係では乳牛関係の資料提出が遅れていたことが認められる。
けれども右農村四季表の提出期限は本件争議のはじまる一箇月も前であつて、その遅延を本件争議のみに原因があると断ずるをえないし、また前記回答書によれば昭和三六年農業経営調査中間報告表後期分は昭和三七年四月末日の期限に対し同年六月二六日に報告がなされていることが認められるので、本件前期分の報告も右報告の実情に照らし必ずしも著しく遅延したものとは認められないばかりか、その遅延が本件争議にのみ基因したものと即断はできない。更に右回答書によれば、乳牛関係資料も、報告が遅れたとはいえ、全国公表の昭和三六年度牛乳乳製品の生産消費量に関する統計には当該月分の記載がなされ、少くとも公表の分には、影響がなかつたことが認められる。また経理証拠書類についても昭和三六年四月分から昭和三七年三月分まで、すべて、提出期限を超えて提出されており、中には本件の遅延を上廻るものも見受けられるのであつて、本件だけが格別遅延したものでもないことが明らかで、これまた本件争議の影響のためであつたとばかりは断じえない。
ところで、右のように批判しても、前示のとおり本件争議に基因して現実に報告が遅延し、あるいは調査の対象を縮少せざるをえなかつた事実のあることも否定しえられないところといわねばならないが、その中でも本件長崎統計調査事務所部内だけでの書類提出や、指導の遅延のごときは、国民生活に重大な障害をもたらすものとはなりえないし、本省に対する報告関係においても、原審における証人角桂策の供述記載によれば、本件争議による業務遅滞に関しては、あらかじめ長崎統計調査事務所から連絡もしてあり、本省における業務が、そのために重大な支障を来したことはなかつた事実を認めることができるのであつて、右のような業務の停滞遅延の程度では未だ国政の停廃を招いたとは到底認められず、ひいて国民生活に重大な障害をもたらしたものというをえない。
なお、原判決は「本件の職場放棄の争議行為が原判示のような坐りこみの期間、規模ないし態様などに照すと、到底その手段としての相当性、許容性を認めることはできない」と説示している。しかし、前示のとおり一〇月一三日より同月一七日まで(うち一五日の日曜日を除く)出勤した職員の半数宛二時間交替で、同月一八日には全員一斉に、同事務所玄関前附近で、また同月一九日から同月二四日まで(うち二二日の日曜日を除く)全員一斉に同事務所裏庭で、それぞれ勤務時間中坐りこみという可成長い期間に及んでいるとしても、前に述べたような本件争議の経過に照し、かつその目的、罷業の規模、態様、業務の性質、これが国民生活に及ぼした影響等を勘案すれば、その手段として著しく均衡を失するものとは速断し難く、特にその期間の点も必要以上の過度なものとして不当性をおびるものと解するのは相当でない。
すると、本件争議行為は政治目的に出たり、あるいは暴力を伴つたような、もともと労働法秩序外にあるものとは異なり、しかも、職種業態においても、また事務の停滞の点についても国政の停廃を生じ国民生活に重大な障害をもたらす具体的危険が明白であつたとは、認められず、また被告人等の前記説示のごとき具体的行動は争議行為等に通常一般的に随伴し、これと不可分の関係にあるものと目せられるばかりか、その具体的言動が争議行為を上記意味における不当性をもつものまでに進展させるほどの激越なものであつたとも認めることはできないのであるから、これを国家公務員法第一一〇条第一項第一七号に該当するあおり行為であると認めることをえないことは、すでに弁護人等の控訴趣意第一点において説示した同号の解釈として示したところに照らし明らかである。
すると、被告人等の本件所為は罪とならないものというべきであるから、これに対し国家公務員法第一一〇条第一項第一七号をもつて問擬した原判決は法令の解釈適用を誤つた違法があり、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
そこで弁護人等のその余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項により原判決を破棄し、(検察官の本件控訴の趣意は量刑不当であるところ、右のとおり原判決を破棄する以上、その控訴の理由があるかどうかについて判断する余地はない)同法第四〇〇条但書に従い更に判決をすることとする。
本件公訴事実は「被告人上野四郎は全農林労働組合長崎県本部副執行委員長、同今村美千典は同組合長崎県本部統計本所分会執行委員長であるが、被告人等において農林省長崎統計調査事務所所長早水信夫に対し、さきに同事務所の前所長松浦忠夫と全農林労働組合長崎県本部との間に取り決めていた旅費問題等一七項目にわたるいわゆる労働慣行につき、これが継続遵守方を求めていたところ、昭和三六年九月四日頃右早水所長より旅費の支給については同年九月一日から旅費法どおり支給する旨の通告を受けたので、これを撤回させるとともに前記労働慣行全般を確認遵守させる目的をもつて、同労働組合長崎県本部統計本所分会所属組合員であつて国家公務員である同事務所職員をして所属長の承認なくして就労を放棄し、同盟罷業を行わしめようと企て、被告人両名共謀のうえ、犯意を一にして同年一〇月一二日長崎市山里町三一二の二番地所在の同事務所において、国家公務員である前記本所分会組合員竹本不二夫等約五〇名に対し、被告人上野において「所長が要求を拒否したので坐りこみを実施する。最後まで団結して頑張り抜いてもらいたい」旨強調し、被告人今村において坐りこみの方法、注意事項等を指示して同事務所職員の就労放棄方を慫慂し、引続き翌一三日より同月二四日までの間(但し一五、二二日を除く)連日にわたり坐りこみ中の同事務所職員に対し交々「団結を固め最後まで斗おう」「当局より一日長く頑張ろう」等と強調してその就業放棄の継続方を慫慂し、もつて国家公務員である農林省長崎統計調査事務所の職員に対し、同盟罷業の遂行をあおつたものである。」というのであるが、被告人等の所為が罪とならないこと右に説示したとおりであるから、刑事訴訟法第三三六条に従い無罪の言渡をする。
よつて主文のとおり判決する。(岡林次郎 山本茂 生田謙二)